第五回 何を書くかより、構成を考えるのが好き

――― ところで、鳥海さんご自身はどんな字を書かれるんですか?

鳥海  えぇ!? どういうこと?

――― 変なこと聞いてすみません(笑)。
    鳥海さん個人としての、プライベートの文字です。

鳥海  おれの字? 
     (困ったように)おれの字、どんなかなあ。
    あ、ほら、確か『書体デザイナー』の本*で
    ※『文字をつくる9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)
    自分の名前を書いたよ。うん、書いた。

――― あっ、それは拝見しました。
    でも、ええと、ちょっとちがうんです。
    あの、たとえばクレジットカードのサインをするときに、
    きれいな字を書こうなんて全然思ってなくて
    無意識なんだけど、結局いつも似たような
    文字を書いてるなっていうことありますよね。

鳥海  ああ、あるある。

――― そういうときの鳥海さんの文字は、
    既存のフォントに似てると思われますか?

鳥海  全然似てないよぉ(笑)。
    でも自分をよく知っている人に、
    自分がつくった書体を鳥海っぽいと言われたことはある。
    それが何かっていうのは自分ではわからないですね。

――― 書体のデザインが佳境に入ったときに、
    プライベートの文字も
    そっちに寄ってきちゃうことはないんですか。
    憑依するというか。
    「あれっ、おれってどんな文字書いてた?」みたいな。

鳥海  (しばらく考えこんで)
    ないよぉ。それはない。
    (また考えこんで)
    …そもそも仕事以外であんまり文字を書かないかも(笑)。

――― オンとオフは分けてらっしゃるということですね(笑)。

鳥海  うーん、ハガキ書いたりするのは好きなんですよ。
    実は字游工房を立ち上げたばかりのころ、
    フォントを買ってくれたひとに
    御礼のハガキを手書きで出していたことがあるの。
    すごく凝って、落款までいれてね。
    だけど、そういうときも、
    何を書くかより、構成を考えるのが好き。
    できればずっと続けたかったんだけど…。

――― 今も全員にハガキ出してたら大変ですよ(笑)
    でもきっともらったひとはうれしかったでしょうね。

    私も下手なりに、手で字を書く作業は大好きで、
    〈文字の食卓〉も、毎回、手書きで書いているんですね。
    テーマの書体を真似してみたりしながら。
    パソコンの画面で別のフォントを見ながらだと
    別のイメージが入ってきちゃうので。

    それで、文章を書くときに、
    イメージする書体によって文体が変わる、
    そういうこともあるんじゃないかと
    思うようになったんです。

鳥海  ああ、それはきっとあるんでしょうね。
    「理想の文字を書けたら、
    書くことがなくなるんじゃないか」って書いていたよね。

――― ある書体からインスパイアされる言葉で詩をつくるとか、
    そういうこともやってみたくて。
    「自分の字を忘れた書体デザイナー」を主人公にした小説は
    どうかと思って、アイデアを考えてたんですけど。
    でも、人間は簡単に自分の字を忘れたりしないということが
    今日わかりました (笑)。

鳥海  それはぜひ書いて(笑)。

――― はい(笑)。
    そのときは鳥海さんをモデルにします(笑)。

(おわり)2012-08

[参考リンク]
 字游工房ホームページ
鈴木勉の本
文字をつくる九人の書体デザイナー(誠文堂新光社)

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