Message
子どものころ、物語をつくるひとは、とくべつな文字をつかえるのだと思っていました。
大好きな本のなかの文章が、こんなにきらきらとして、自分の書く文章とまるでちがってみえるのは、きっと文字にひみつがあるからだと。そう思って、一日じゅう、好きな本の文字の書体を真似して書き写す練習をしたものです。そして次におもしろい本に出会うと、自分もこんな物語を書きたいと切望して、またひたすら文字を写す、その繰り返しでした。
その書体のひとつひとつに、ちゃんと名前がついているのだと知ったのは大人になってからのことです。
しかし、そのときにはすでにDTP化が進み、活版や写植の時代は終わりつつありました。
印刷の工程は昔と大きく変わり、かつて私たちの身近にあった書体の多くは、おどろくほどの早さで、その生きる場所が失われています。
けれど、美しい書体には、なつかしい香りや味覚と同じように、「今、ここ」ではない場所へ心を導いてくれるすばらしい効能があります。
たとえば街の路地裏で、古い看板の文字をふと目にしたとき。
旅先のホテルで、カフェのメニューをひらいたとき。
忘れかけていたあの本を、夢中で読んでいたころの遠い記憶が、そこに描かれていた人生や物語とともに、一瞬でたたきおこされる——。
私にはデザイン論を語ることはできません。
ただ、書体と言葉の出会いから生まれる、滋味豊かな味わいを誰かに伝えたい。
本のつくり手と読者のあいだにある、言葉にできない至福を、文字にうつしとりたい。
そんな思いからつくったサイトです。ごく私的な、世界にひとつだけの書体見本帳になっていると思います。
書体は、勿論、作家が言葉を生み出して初めて、選ばれるものですが、文字の表情にひきよせられて、めぐりあう言葉もきっとあると信じています。
正木香子 Kyoko Masaki

略歴
文筆家。「文字の食卓」主宰。レタリング技能検定中央試験委員。
1981年生まれ、福岡県出身。早稲田大学第一文学部卒業。
幼いころから活字や写植の書体に魅せられ、
〈滋味豊かな書体〉をテーマに各紙誌エッセイを発表している。
著書
- 『文字の食卓』(本の雑誌社)
- 『本を読む人のための書体入門』(星海社新書)
- 『文字と楽園〜精興社書体であじわう現代文学』(本の雑誌社)
連載
- ウェブ連載「タイポグラフィ・ブギー・バック」(ウェブ平凡)
- ウェブ連載「その字にさせてよ」(type.center)(~2018年4月)
- 『デザインのひきだし』(グラフィック社)「もじのひと」(~2017年10月)
寄稿
- 『文學界』2018年6月号(文藝春秋)「米つぶの文字」
- 『月刊MdN』2016年 11月号「絶対フォント感を身につける。2」 特集「写植モダン。―現代に息づく写植の文字を味わう― 」
- 『本の雑誌』400号記念号(本の雑誌社)特集 「なんでもベスト10!」文字の食卓が選ぶ「本文書体ベスト10」
- 『ケトル』VOL.23(太田出版)「辞書と図鑑が大好き!」
- 『en-taxi』Vol.43(扶桑社) 「文字とスッピン」
- 『+DESIGNING」vol.38(マイナビ出版)「文字と組版」特集 対談:祖父江慎さん「文字の味、書体の記憶」/「文字と私」
- 『早稲田文学』2014年秋号ーことばの庭ー「文字の平坦な戦場」
- 『考える人』2014年夏号(新潮社)「目においしい書体味くらべ」
- 『こどもの本』2014年4月号(日本児童図書出版協会)「心にのこる一冊」
- 『本の雑誌』2013年3月号(本の雑誌社)インタビュー:多田進さん「本のたくらみ本のたのしみ」
- 『東京人』2013年8月号「写植の時代が教えてくれること」
その他
- 「文字の食卓展」(写植の時代展Ⅱ於:メビック扇町)
- 朝日カルチャーセンター講座「読書好きのための書体の味わい方」
- 阿佐ヶ谷美術専門学校 連続セミナー「タイポグラフィの世界―ブックデザインと書体―」
- 京都精華大学特別セミナー「読み手と作り手の対話」
- 松本タイポグラフィセミナー「おいしい文字のチカラ」
- ブックオカ「書店員ナイトin福岡拡大版」
- 自費出版アドバイザー養成講座 など
メディア掲載
Web
- 『松岡正剛の千夜千冊』1636夜
- 『みんなのミシマガジン』(ミシマ社)本屋さんと私 第116回 書体の世界へ(公開終了・インターネットアーカイブ)
- 『ROOMIE(ルーミー)』文字と言葉の記憶をめぐるエッセイ『文字の食卓』
- 『ページバイページ 江口宏志と幅允孝の1000冊』2014年4月3日のテーマ「花びら」
書籍・雑誌
- 『Typography 13』(グラフィック社)タイポグラフィ事典
- 『THE BOOKS green』(ミシマ社)365人の本屋さんが中高生に心から推す「この一冊」
- 『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)2014年5月号 書評掲載
- 『装苑』(文化出版局)2015年1月号 ギフト特集「本屋さんが選んだ贈る本」
- 『週刊文春』(文藝春秋)2013年12月19日号「文春図書館」書評掲載
- 『週刊金曜日』(株式会社金曜日)2013年11月8日号 書評掲載
- 『BRUTUS』(マガジンハウス)2014年1/1・15合併号「暮らしを彩る本、旅を楽しむ本。」
新聞
- 共同通信「時の人」
- 産経新聞「いまやフォント(書体)を味わう時代…理想を求めて写植が残す本への思い」
テレビ・ラジオ
- NHK ひるまえほっと「いまほんランキング」
- TOKYO FM「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」「ようこそ、シネマへ。~スタジオジブリの紙の広告~」
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